いらっしゃいませ
夏石鈴子 著
角川文庫 2006年
短大を卒業して出版社に入社した新入社員の女の子・鈴木みのりが主人公。
この本の魅力は、主人公みのりの独り言だ。
先輩社員や、同期、母親との会話の中での、口には出さないみのりの独り言。自己中心的で周囲に嫌な想いをさせる人に対する心の中の独り言。素敵な先輩に対する心の中の独り言。
みのりは、いいと思うこと、おかしいと思うことが、一貫していると思う。世の中で一般的に行われていること、よく見かけることでも、そういうものだと流さずに、ビシッと心の中で独り言をつぶやく。
採用試験、新入社員研修、入社してからの業務、同じ職場の人とのあつれき。いろんなエピソードがあるけれど、それほど大きなエピソードはない。だけど、エピソード毎にみのりの独り言を聞くたびに、一歩ずつみのりに近づいてひかれていく。そして、みのり自身も、入社して一年間でまた成長していく。
たぶん、私自身は、みのりが指摘するようなことに違和感を感じながらも、無意識レベルでとまってしまっていると思う。ちゃんと言葉にできていないので、モヤモヤした気持ちを募らせていると思う。だから、本書を読む中で、みのりの独り言で、自分の中のモヤモヤが言語化されていくのが楽しい。
繰り返しになるが、本書の中で大きな事件はない。だけど、みのりの一年間は、とても素敵な一年間だ。著者による、あとがき的な文章を読むと、とても大切な思い出を元に作られていることがわかる。みのりに寄り添って一緒に一年間を過ごしたような感覚。すがすがしさを得られる一冊だった。
最後に、印象に残ったことばを引用します。
P.43 君たちは、この会社に入ったからといって決して勘違いしないように。君たちは全然たいした人間ではないんです。
P.114 ふーん、バカはバカなりにいろいろなことをするものだ、とみのりは思った。
P.193 野菜だと、白菜の魅力は、いっぺんに伝わらない。そんな白菜のような女の子って確かにいるのだ。
P.200 卒業したって、入社したって、引越したって、ほんの少し日常が変わるだけで、あとはまた新しく日常が続いていくだけなのだ。
P.202 みのりは、別に結婚しなくても、結婚できなくてもいい、ただ恋愛して生きていきたかった。
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